「難思の弘誓は難度海を度する大船、無碍の光明は無明の闇を破する恵日なり」
と。
瑞劔は三十八歳の夏、恩師桂利劔先生から親しくこの御文を授けられた。宗教多しと雖も、聖句金言多しと雖も、こんなすばらしい聖句は他に見ることが出来ない。
恩師が、あの朗々たる音声で、厳然として面授せられた時は、さながら大聖釈迦牟尼如来が、大無量寿経をお説きになられた時も、このようであったろうかと思われた。光顔巍巍たる温容と、朗々たる音声、骨髄に徹するものがあった。
その前の年に父が亡くなっていたが、桂先生に師事してから一ヶ月目に、父が夢に現れて、瑞劔(最三)に告げて曰く、
「難思の弘誓は難度海を度する大船、無碍の光明は無明の闇を破する恵日なり。
・・・最三ここやぞ、これやぞ」
と言って消え去った。
桂先生に師事すること二十年、一日としてこの聖句を思い出さぬ日はなかった。九十三歳の今日まで、この聖句の御恩を慶び喜び暮らしておる。
稲垣瑞劔師「法雷」第14号(1978年2月発行)